Temptation

〜後朝〜


チチチ・・・
どこかで甲高い鳥の声がして、巽はふと目を覚ました。
身動ぎをして重い瞼をあげると、間近に松田の寝顔があり、胸がどきりと高鳴った。細面の松田の顔に、ブラインド越しの朝の光が射しかかっている。光の中に、長い睫毛が濃い翳りを落としていた。
ぼんやりとした意識の中で、巽は松田の裸体を見つめていた。ブラインド越しの斑な光の中に、幾つもの傷跡が浮かび上がる松田の胸がゆっくりと上下していた。
『リキさん、きれいだ・・・』
思わず見とれていると、ふわりと松田の目が開いた。とろりと潤んだ眸が、巽の姿を捉えると、ふと笑みを浮かべた。するりと伸びた松田の手が、巽の頬をそろりと撫でた。
とくん、と巽の胸が跳ねる。
『俺、昨夜、リキさんと―――』
唐突に昨夜の行為を思い出し、巽の頬にカーッと血が上った。耳まで熱くなるのを感じて、巽は眼を伏せた。

「タツ、可愛いよ―――」
尻を高く掲げさせられて、巽は、羞恥に震えた。秘めた場所が松田の目に晒されている。耳まで、紅く染まった。
松田の細い指が、引き締まった巽の臀部を強く掴んだ。
松田の雄が、巽の奥深くに楔を穿つ。ゆっくりと抽挿を繰り返して、松田は巽を支配した。
「あああ―――っ」
松田の細く引き締まった体に組み敷かれて、巽は、がくがくと身体を震わせた。シーツをきつく掴み、枕に顔を埋める。
松田の紡ぎだす律動に合わせて、巽の唇から濡れた声が溢れだす。
「く―――ん」
繋がった場所から、脳髄まで貫き通すような快感が拡がり、巽は我を忘れた。熱い肉襞が、松田の雄に絡みつき、淫らに蠢いた。
「タツ、腰を動かしてごらん」
松田が、巽の髪を掴み引き起こすと、耳朶を噛むようにして囁いた。交合が深くなり、巽の身体がびくりと大きく震える。
「ほら―――」
松田の淫靡な囁きに促されて、巽はおずおずと腰を動かした。松田の細い指が、巽の熱に絡みつく。煽られるように、巽の腰ががくがくと揺れた。
「リキさん―――」
巽の濡れた唇が、酸素を求めるように開いた。唇の端から、透明な液体が頤を伝い落ちた。
「いい子だ、タツ」
にやりと笑みを刷いた松田が、濡れた唇で巽の背筋を辿る。いたずらな舌が、ちろちろと若い肌をいたぶるように舐めていく。
「はあ・・・はあっ」
声にならない、荒い吐息が巽の唇から吐き出された。
前と後ろから責めたてられて、巽の脳裡は白く弾けそうになった。
意地悪な松田の指が、巽の熱の根元をきゅっと握りしめた。解放できない熱の熱さに、巽は身悶えた。
「リキさん・・・リキさんっ!」
目尻に、光るものが浮かぶ。
松田は、くすくすと笑いながら、巽の目元に唇を寄せ、そっと涙を拭いとった。
「まだ、これからだよ、タツ」
奥深くまで貫いていた楔をゆっくりと引き抜き、また深々と貫き通す。
「―――っ」
巽が、声にならない悲鳴を上げた。巽の熱はいや増すばかりだが、松田は指を緩めようとはしない。
「リキさん、も、許して・・・」
息も絶え絶えに、巽が懇願した。
「駄目だよ、タツ」
松田が妖艶に微笑んだ。
「もっと、もっと可愛い顔を見せて」
そう囁きながら、巽の腰を律動的に突きあげる。松田の動きにつれて、巽のしなやかな身体が、がくがくと揺れた。
巽の唇から間断なく、悲鳴のような喘ぎ声が零れ落ちた。ひゅうひゅうと喉が鳴る。
「どうしたい?」
松田が低い声で囁いた。
巽が、いやいやをするように、小さくかぶりを振った。
「ちゃんと言ってごらん」
松田は、弄うように続けた。
「・・・い、イカせて・・・」
震えながら懇願する巽の背に覆いかぶさるようにして、松田が囁いた。
「いい子だ」
にやりと笑った松田は、激しく腰を使いながら、巽の熱の根元を締め付けていた指を解いた。
深く突きあげられた瞬間、巽の脳裡に白い光が弾けた。
松田と巽は、折り重なるようにして、シーツの上に倒れ込んだ。

「タツ、眼、開けて」
松田の心地よいテノールが、耳に流れ込む。巽の頬を、松田の細い指がそろりと撫でた。
松田に翻弄されるまま、何度も何度も貫かれた前夜の自分を思い出し、巽はギュッと目を閉じた。
「タツ」
甘い毒のような松田の声に、恐る恐る眼を開く。
「リキさん・・・」
どぎまぎと視線を泳がせる巽の唇を松田の指がなぞった。くすぐったいような、痺れるような甘い感覚に、巽は思わず身を竦めた。
「おまえは、本当に可愛いな・・・」
松田が目を細める。細い指が、緩く閉じた唇をこじ開けてするりと滑り込んだ。
口蓋を撫であげられて、巽の背を甘い痺れが駆け上がる。
「誰にも、こんな顔を見せちゃいけないよ」
笑みを含んだ松田の声が囁く。
巽の胸が、甘い痛みに熱く震えた。
誰にも―――誰にも見せられるはずがない。愛しい松田以外には―――。

[END]

2013.03.04