THE END OF THE WORLD

この世の果てまで探しても、もう二度と会えない。


「それじゃあ、谷さんとゲンは、岡島の身辺を、リキと―――」
言いさして大門は、口ごもった。デスクの周囲に集まっていた捜査課の面々も、一瞬押し黙ってしまった。
「―――ポッポは、現場付近の目撃者探しを、一兵とジョーはガイシャの足取りを辿ってくれ」
「はい!」
捜査の分担を割り振られた一同は、それでも威勢良く返事をして見せて、刑事部屋を出て行った。
バタンと音を立てて閉ざされたドアを見やって、大門は小さく溜息を吐いた。二宮の心配げな視線が痛かった。
松田を喪ってから、捜査課の空気は一変してしまった。
仲間を喪うことは、何度経験しても慣れるものではない。巽のときも、兼子のときも、その痛手は大きかった。
だが、松田の場合はその痛手もひとしおだった。本庁への栄転が決まっていた松田は、大門以下仲間を救うため、その身を銃弾の雨にさらし、一人逝ってしまったのだ。
捜査課の誰もが、松田の死を現実のものとして受け止めることができずにいた。いつも賑やかだった刑事部屋も、松田の死以来、しんとして笑い声の上がることはなくなった。
誰もが、自分たちのために逝ってしまった松田を偲んで、物思いに耽ることが多くなった。それぞれが、捜査の合間を縫って、入れ替わり立ち代わり、松田の墓を何度も訪れていた。先日、大門が訪れたときにも、松田の墓の前には、真新しい百合の花が手向けられていた。
誰もに愛されていた松田。
誰よりも愛していた松田。
大門は、半身を喪ってしまった。永遠に。
『大さんに看取られて、リキは満足しているよ』
木暮の言葉が甦る。
そうだろうか。松田は、満足して逝ったのだろうか。あの時目尻に浮かべていた涙は、安堵の涙か。別離の涙か。
今でも大門の中で答えは出ていなかった。
ただ、松田が愛しかった。いつも傍らにあった温もり。どんなときも真っ直ぐに大門の眼を見つめ返してきた眸。抱き締めた細い背中。薄い唇から漏れた甘い吐息。大門の背に縋りつくしなやかな腕―――。
松田を喪ってから、毎日のように酒を飲んだ。飲まなければ眠れなかった。
残酷なまでに美しい真紅に染まった松田の姿が、眠りの中にも忍び込んできた。
抱き締めた腕の中で、ぐったりと力を失い、徐々に冷たくなっていく松田のからだ。
忘れられない。忘れられるはずもない。
大門は、命のある限り、松田のことを忘れることはできないだろう。
松田の居ない世界に生きていくことに、意味を感じることなどできなかった。
それでも、大門は生きていかなければならない。この世に犯罪のある限り、刑事として生き続けなければならない。それが、大門を守って逝ってしまった松田に対する応えだった。
だが―――。

あの日、世界は終わりを告げたのだ―――。

[END]

2004.05.05
[Story]