Bitter Sweet Bitter


「オキ、セブンに寄ってかないか?」
鳩村が、そう誘ったのは。そうたいした意味はなかったけれど。
署の廊下を二人肩を並べて歩くと、交通課、少年課、庶務課と通り過ぎる部屋ごとに、婦警たちが出てきては、カラフルな包みを差し出した。鳩村に渡す者あり、沖田に渡す者あり、二人に渡す者あり―――。
「今年も大漁!」
無邪気に笑み崩れる鳩村に、沖田は苦笑いを返した。
「沖田さん!」
最後に受付を通り過ぎようとしたとき、カウンターの中から、一人の婦警が沖田を呼び止めた。小走りに出てきた婦警は、頬を上気させて、ピンク色の包みを差し出した。今までに包みを差し出した婦警たちとは、少し趣が違う。何より、眼差しが真剣で熱っぽい。一目で、沖田に本気で恋をしていると分かった。
「受け取ってください。お願いします」
押し付けるように、包みを沖田の手に押し込むと、ぴょこんと頭を下げて、恥ずかしそうに席に戻って行った。
正面階段を降りながら、鳩村が、ひゅうと口笛を吹いた。
「オキ、ありゃ、本気だぜ」
鳩村の冷やかしに、沖田は、手の中の包みを見つめた。どれもこれも、きらきらと愛らしい。沖田は、色とりどりの包みに込められた想いを、眩しいような気持ちで見つめた。
その想いの強さは様々でも、沖田に向けられた好意であることに変わりはない。だが、それらのどの想いにも、応える時間を持たない沖田だった。
今はまだ痛む筈のない背中の傷が、切なく疼いた。
黙り込んだ沖田の横顔を見つめて、鳩村は、なぜか胸が切りつけられるような思いがした。
その眼差しが、余りにも痛々しくて。何故かと問い質すほど子供でもないけれど、ただ眼をつぶるほどには大人になりきれず。
「オキ」
いつもより頼りなげに見える、沖田の肩を抱き寄せて。
掠めるような、キスひとつ―――。
「It's an American joke!」
驚いたような眸で見つめ返す沖田に向かって、気障にウインクをしてみせる。
「Bad joke」
ひとつ瞬きをした沖田が、小さく笑った。
その笑顔が愛しくて。この想いは、ジョークでは済みそうもない。
[END]


2005.02.14初出:裏西部

2015.02.14再掲

[Story]