Be My Valentine


チャイムの音に玄関を開くと、大きなバラの花束が松田を出迎えた。花束の向こうには、満面の笑みの桐生が立っていた。
「なんだよ、これ」
松田が戸惑いながら口を開くと、桐生が花束を差し出してきた。
「受け取ってくださいよ、俺の気持ち」
「あんまり、受け取りたくねーなー」
余りにもそっけない松田の返事に、桐生はわざとらしく、傷ついた顔をして見せた。
「今日は、バレンタインですよ」
「女が、男に告白する日だろ」
「それは、日本の話。本来は、恋人同士が互いに、花束やカードを贈りあう日なんですよ」
ちっちっち、と立てた人差し指を横に振って、桐生がしたり顔で説明する。
「ここは、日本」
「そういう、つれないこと言わないの」
押し付けられた花束を、不承不承受け取って、松田がぼやいた。
「いつ、俺とおまえが、恋人同士になったんだかな」
「そんな、今さら」
にへにへと笑み崩れる桐生を前に、松田はうんざりしたように花束を覗き込んだ。バラの花の間から、小ぶりなカードが顔を覗かせている。取り出したカードを開いてみると、桐生の軽いタッチの文字が躍っていた。
《Be My Valentine》
「リュウ」
「はい?」
「おまえの気持ち、ありがたーく、受け取ってやるよ」
にやりと笑った松田の言葉に、ぱっと眼を輝かせた桐生の腕を取り、部屋の中へ引きずり込む。そのまま、脚払いをかけて、くるりと床に押し倒した。
「リキさん?」
予定外の体勢に、眼をぱちくりさせている桐生に覆いかぶさり、抵抗を封じる。松田はニヤニヤと桐生の眼を覗き込んだ。
「As you like」
そのまま、桐生の襟をくつろげ、若々しい首筋に唇を這わせる。
「お、お気に召しませーん」
眼を白黒させながら、じたばたと抵抗する桐生の両腕を、頭の上で一纏めにする。
「I become your Valentine」
にっこりと満面の笑みを浮かべた松田は、音を立てて桐生の唇にくちづけた。
[END]



2005.02.14初出:裏西部


2015.02.14再掲





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