Temptation

〜悪戯〜

刑事部屋のあるフロアの隅のトイレで小用をたしていた巽の隣に、松田がすっと立ち、用をたし始めた。
「今日も暑いな」
額にうっすらと汗をかいた松田が、巽に話し掛ける。
「ああ、たまんねぇな」
巽が応えながら用を済ませ、手を洗っていると、松田の笑いを含んだ声が背後に降ってきた。
「溜まってんじゃねぇのか?」
「何が?」
怪訝な顔で松田に顔を向けた巽の横で、松田も手を洗いながら、くすくすと笑っている。
「リキさんって、ときどき訳わかんねーよな」
ぼやきながら巽がトイレを出ようとしたとき、松田の手が伸び、背後から巽の首に絡みついた。
「ちょっと来いよ」
「え、ちょっ―――リキさん!」
ぐいっと引っ張られて、巽が慌てた声を上げる。そのまま、誰もいないトイレの一番奥の個室に押し込まれる。
松田がすばやくドアを閉め、鍵をかけるのを見た巽は、ますます慌てて声を上げた。
「リキさん、何―――」
その先の言葉は、松田の唇に遮られてしまった。するりと忍び込んできた松田の舌が、歯列をなぞり、口蓋を舐め上げる。快感がぞくぞくと巽の背中を駆け上る。
散々に口腔を犯されて、巽の頬が上気して朱に染まった。震える腕が無意識に松田の肩に縋りつく。
松田が僅かに唇を浮かせると、巽の濡れた唇から熱い吐息が漏れた。
「溜まってんだろ?」
にやりと笑った松田の手が、ジーンズの上から巽の中心に触れた。
びくりと巽の体が震える。敏感な部分をやんわりと揉みしだかれて、巽の体がいっそう大きく震えた。
「リキさ―――」
羞恥に震える巽の声を、松田のもう一方の手が口を覆って遮った。
その間も、松田の指が巽の中心に快楽を与えていく。そろりと滑った指が、ジーンズのジッパーをすばやく下ろした。潜り込んだしなやかな指が、下着の中まで侵入し、巽の中心に直に絡みつく。
「く―――ん」
松田の手に覆われた巽の口から、甘く濡れた声が漏れた。薄く開いた唇の間に、松田の細い指が滑り込む。つっと口蓋を撫で上げられ、巽の体が快感にわなないた。
松田が、巽の耳朶に触れんばかりにして囁いた。
「舐めてみろよ」
巽が、戸惑いながらおずおずと松田の指に舌を這わせると、巽自身に絡みついた松田の指がその動きに応えるように動いた。直接与えられる刺激に、巽の体がびくびくと震えた。
「いいだろ?」
にやりと笑った松田の唇が、巽の若々しい首筋を伝い下り、更なる快楽を巽に与えた。
巽は夢中で松田の細い指に舌を絡めた。応えるように、松田の指が律動的に動く。硬く勃ち上がった巽自身は、快感を解放しようとびくびくと震えていた。
引きずり出された巽自身を、松田の唇が包み込む。
「リキさ―――」
あまりのことに思わず声を上げた巽の口を、再び松田の手が塞いだ。
一瞬の後。
「おー、漏れる、漏れる!」
源田の騒がしい声がトイレに駆け込んできた。源田があわただしく用をたす気配が伝わってくる。
巽は、源田に気づかれないよう、荒い息を押し殺した。
その巽を責め立てるように、松田の舌が巽自身に絡みついた。巽自身の裏側の筋を、松田の舌が舐めあげる。
快感の強さに、巽はひゅっと息を呑んだ。
ドタドタと源田がトイレを出て行く気配に、巽は僅かに息を緩めた。源田に気づかれなかった安堵に、強い快楽が加わって、巽の膝ががくりと砕けた。
「ちゃんと立ってろよ」
松田の唇が巽自身に触れたまま囁く。その淫靡な動きの与える快楽に、崩れ落ちそうになる体を、巽は必死で壁に押し付けて支えた。
松田の唇が、巽自身を再び深く飲み込んだ。熱い快楽に、体をがくがくと震わせた巽は、いつ、誰が入ってくるか分からない危機感の中で、声を漏らさないよう、固めた拳に歯を立てた。
次の瞬間。
きつく閉ざした巽の瞼の裏に、白い光が弾け飛んだ。巽は、がくがくと一際大きく体を震わせた。巽の放った白い精を、松田はごくりと飲み下した。
立ち上がった松田が、荒い息をついている巽にくちづける。青臭い、自分自身の匂いのするくちづけは、奇妙に倒錯した快楽を巽に与えた。
「またな」
巽の耳朶にくちづけるようにして囁くと、松田はトイレを出て行った。後に一人残された巽は、快楽の余韻に震える体を壁に押し付けて、茫然と立ち尽くしていた。

2004.09.25
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