no-dice

BG connection


「なあ、ジプシー、ちょっと飲んで行かんか?」
署の門のところで追いついてきた春日部が、原を誘った。
「そうだな、久しぶりに早く帰れるんだし」
原が、ちょっと笑って答えた。
「よっし!じゃあ、どこにする?」
嬉しそうに目を細めた春日部が、先に立って歩き出す。
「ボギーのお奨めは?」
「そうだなあ・・・」
どこで飲むかを相談しながら、原と春日部は肩を並べて歩き始めた。

春日部の馴染みの、広島の郷土料理を出す店で、たらふく食べてたらふく飲んで、二人は夜道をそぞろ歩いていた。
他愛のない話をしながら歩いていた春日部が、ふと黙り込んだ。
「どうした、ボギー?」
怪訝な顔で、原が訊ねる。
「あ、いや。その、よかったら、これからうちで飲み直さんか?」
何故か春日部は、原の方を見ようとせずに言った。
「ちょっと、話があるんだ」
改まって話があるなどと言われて、ちょっと戸惑いながら、原は頷いた。

「まあ、飲もうや」
春日部は、買い置きのビールを冷蔵庫から取り出し、グラスを原に差し出した。
少し乱雑な狭い部屋に胡坐をかいて座り込み、ピーナッツをつまみににビールを酌み交わす。
春日部は、原にビールを勧める以外には、あまり話さずにグラスを呷っていた。
しばらくそうして互いにグラスを重ねた後、原が徐に口を開いた。
「ボギー、話って?」
原は、小首を傾げて春日部を見つめた。
「あ、なんだ、その・・・」
原の真っ直ぐな眼差しに、春日部は、どぎまぎと言いさして口籠った。
「ボギー?」
原が、黒眼がちの大きな眸で、きょとんと春日部を見つめた。
春日部は、ますますどぎまぎしてしまい、ぐしゃぐしゃと髪をかき回した。さらさらのまっすぐな髪が乱れる。
「・・・その、あー、なんだ・・・その、好きだ!ジプシー!」
叫ぶように言うと、原の両肩をガシッと掴む。
ぱっちりとした原の眸が、更に大きく見開かれた。次の瞬間、くすぐったそうに微笑む。
「ボギー、ほんとに?」
「お、おう!」
大きく頷く春日部に、原は嬉しそうに笑った。
「俺も、ボギーのことが好きだよ」
予想外の原の言葉に、春日部は目をぱちくりさせた。原の肩を掴んでいた手を慌てて離し、空を彷徨わせる。
「え、あ、ほんとに?」
困ったように、鼻の脇を掻く。
「いや、参ったな、こりゃ・・・」
落ち着かなくなった春日部を見て、原はぷっと小さく噴き出した。
「なんで、参るんだよ」
くすくすと笑う。
「あ、いや、その・・・まさか、な。まさか、ジプシーが俺のこと、その、好きだなんて・・・思ってもみなくて、だな・・・」
言いながら、照れたように笑う。
「その、驚かれると思っとったんでな・・・」
春日部の言葉を聞いて、原はくすりと笑いを零した。
「驚いたよ」
くすくすと笑って続ける。
「だって、ボギー、いきなりなんだもんな」
「俺だって、その、もうちっと上手く言いたかったんだけどな。カーッとなっちまって・・・」
面白そうに笑う原を見やって、春日部はぼやいた。頭をがしがしと掻く。
「ボギーらしいよ」
原がひとつ瞬きをして、にっこりと笑った。
原の笑顔を見た春日部が、意を決したように原の肩を掴んだ。
「ジプシー・・・」
春日部は、ぎくしゃくと原に唇を寄せた。触れるか触れないかのくちづけでカーッと頭に血がのぼり、慌てて身を離す。
「ボギー?」
「あ、いや、すまん!」
ふっと原が悪戯っぽく笑う。
「どうして、謝るんだ?」
「あ、いや、その・・・いきなり・・・して、その、悪かった!」
がばっと座り直した春日部が、顔の前で両手を合わせて頭を下げた。
驚いたように春日部を見ていた原が、ふうっとひとつ息を吐いた。
「ああ、もう焦れったいなあ、ボギーは」
そう言うと、原は春日部の腕を掴み、ぐいと引いた。
「うわ!ちょっと待て、待った!ジプシー」
くるりと身体を入れ替えられて、原に組み敷かれる形になった春日部は、焦って上擦った声をあげた。
「何だよ、うるさいなあ、ボギーは」
「うるさいとは何だよ!・・・って、そうじゃなくて、だなあ」
焦った春日部はじたばたともがくが、原が意外にきっちりと身体を押さえ込んでいて思うにまかせない。
「とにかく、黙れよ、ボギー」
そう言うと、原は、春日部の口を唇で塞ごうと、顔を寄せた。
アップになって近づく原の整った顔に、春日部は思わず見惚れた。ゆっくりと重なった唇の柔らかさに、どきりとする。
ちゅっと濡れた音を立てて唇を離した原が、ちらりと笑った。
「俺に任せればいいよ、ボギー」
「任せるって、何をだ!」
慌てた春日部が、原の腕を掴んで、体を入れ替える。
「こういうことはなあ、男が主導権を握るもんだ」
そう言って原の顔を見下ろした春日部に、原がふーんと鼻を鳴らした。
「俺だって男だよ」
「それは、その、言葉の綾でだなあ・・・」
どぎまぎと言い訳をする春日部の首に、原が誘うように腕を絡ませる。
「じゃあ、お手並み拝見」
からかうような原の口調に、春日部はむっと唇を尖らせた。
「馬鹿にすんなよ」
そう言って、春日部は原にくちづけた。不器用なくちづけだったが、原は大人しく、されるがままになっていた。
春日部の手が、そろりと原の胸元を探る。細身のネクタイを緩め、ワイシャツの釦を一つひとつ外す。襟をくつろげて、露わになったすんなりとした首筋に、そっと唇を滑らせる。
ひくりと上下したくっきりとした喉仏にくちづけると、原が、そろりと春日部のシャツをたくしあげた。裾から滑り込んだ原の手が、引き締まった脇腹を撫であげる。春日部がぎくりと動きを止めた。
「ジ、ジプシー?」
うろたえたような声をあげる春日部に、原はくすくすと笑った。
「俺も男だからね」
そう言うと、春日部の細い腰を抱いて、ぐいと体を入れ替えた。
「このぐらいでどぎまぎしてるようじゃ、先が思いやられるよ、ボギー」
上から春日部の顔を覗き込む。そのまま唇を落として、春日部の薄い唇にくちづける。しなやかな手は、春日部の乱れたシャツの裾を大きくたくし上げて、露わになった滑らかな肌をまさぐっていた。小さな屹立を探りあてた指が、きゅっと果実を摘まんだ。
刺激に慣れてはいない春日部の躯が、ぴくんと強張った。原の唇が、細い春日部の首筋を辿る。ちらりと覗いた赤い舌が、そっと灼けた肌をなぞる。ふっと熱い吐息が春日部の唇から漏れた。
春日部は、自分の漏らした吐息にはっと意識を引き戻した。
「ちょっと待て、ジプシー」
「待てないよ、ボギー」
笑いを含んだ声が応える。
「いや、ちょっと待て、待ってください!」
春日部のハスキーな声がひっくり返る。必死に両腕を突っ張り、原の肩を押し返そうとする。
「ボギー、俺のこと、好きじゃなかったのか?」
原の声が、僅かに曇った。形の良い眉がすっと顰められる。
ハッとした春日部は、両腕を突っ張ったまま、慌てて言った。
「好きに決まってるだろ!」
「だったら・・・」
にっと笑った原が、春日部の両腕を掴み取り、畳の上に押さえ込んだ。そのまま覆いかぶさるように、春日部の唇を奪う。
「うわーうわー!違う!好きじゃけん、コレは違うんじゃ!」
短いくちづけから解放された春日部が、ジタバタともがきながら、喚く。
「俺とはしたくないってこと?」
「したいに決まっとろうが!」
「俺もボギーとしたい」
原の直截な言葉に、春日部は一瞬たじろいだ。たじろいだが、ここで退く訳にはいかない。
「俺が、ジプシーに触りたいんじゃ!」
春日部の言葉に、原はくすりと笑った。
「俺だって、ボギーに触れたいよ」
一つ呼吸をおいて、原が口を開いた。
「だったら、お互いに触れ合えばいいじゃないか」
「お互いに触れ合う・・・」
原の言葉の意味がよく掴めず、春日部はおうむ返しに呟いた。
「そう。こんなふうに」
そう言った原は、春日部の手を取り、微かに熱を帯び始めている原の中心に触れさせた。思わずびくりと手を離そうとするところを、重ねた掌で包み込む。重ねた手の下で息づくものから、じんわりと甘い漣が身体の隅々まで広がるのを感じて、原は甘い吐息を漏らした。
空いている手をそろりと伸ばし、春日部の熱の塊に触れる。触れなば落ちんばかりになっていた春日部は、原の手が、指が、布越しに己自身に絡みつくのを感じて、身を震わせた。
原が、春日部の薄い肩に顔を埋める。熱い吐息が肌に触れて、ぞくぞくとした愉悦を生む。
「く―――ん」
春日部の唇からくぐもった声が漏れた。その吐息を奪い取るように、原が唇を重ねる。春日部は、忍び込んで来た原の舌に舌を絡ませ、きつく吸った。
甘い痺れが、原の背中を駆け上った。原の熱に絡みついた春日部の細い指が、男の弱点をついて、原の欲望を暴きたてる。するりと動いた指がジッパーを降ろし、直に熱に触れた。

2013.08.03


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