no-dice

Liar, Liar


「だから、俺は、リキさんのことが好きなんだって」
もう何度口にしたかわからない言葉。いつもはぐらかされて、酔い潰されて、まともに返事を聞いたことがない。だが、今日はまだそんなに飲んでいないから。
巽は、今日こそ松田の答えを聞きだそうと心に決めていた。
「俺も、おまえが好きだけど?」
相変わらずの松田の台詞。巽を弄うように平然と「好き」だと口にするから、本気じゃないとすぐ分かる。が、ここで引き下がっては、いつも通りにはぐらかされてしまうから。
「――俺の言ってる意味、分かってる?」
「たぶん」
疑り深い顔をしている巽を見やって、松田はとぼけた顔で煙草をふかした。
「俺の言ってるのはさ、こういう・・・」
実力行使に訴えるべく、松田との距離をつめる巽に、松田がグラスを差し出した。
「ま、飲めって」
「〜〜〜。なんでいつもそうやって、はぐらかすわけ?」
「別に、はぐらかしてないだろ?」
「じゃ、なんでキスもさせてくんないわけ?」
巽の言葉に、松田はちょっと考えるような眼をしてみせた。巽に差し出していたグラスをあおって、くすりと笑う。
「――おまえが憶えてないだけだろーが」
「はい?」
松田は、意味が分からずにきょとんとしている巽の鼻をつまんだ。
「!――リキひゃん?」
唐突な松田の行動に呆気に取られている巽の唇に、一瞬唇を触れると、松田は悪戯っぽく笑った。
「ほんとに、憶えてないわけ?」
「――夢、じゃなかった・・・?」
呆然と呟く巽の鼻の頭を、ぴん、と指で弾く。
「おまえは、ほんっとに馬鹿だね」
「だって、そんなのしょっちゅう見て――」
思わず口走った巽が、慌てて手で口を塞ぐのを見て、松田は吹き出した。
「ほんっとに馬鹿だね、おまえは」
くつくつと楽しげに笑う松田を、巽は憮然とした顔で、恨めし気に見やった。
「俺のこと、騙してたわけ?」
「黙ってただけ」
「なんで?」
「面白かったから」
松田は人の悪い笑みを浮かべ、煙草の煙をふーっと巽の顔に吹きかけた。
「リキさん〜〜〜〜っ」
いいようにからかわれていたと知って言葉を失っている巽にもう一度軽く口づけると、松田は上着を取って立ち上がった。
「じゃ、俺、帰るわ」
「――って、なんで?」
「明日、早番だから。――じゃーな」
松田は、思わぬ展開に呆然としている巽を尻目に、さっさと部屋を出て行った。巽は混乱のあまり、動けないまま取り残された。
「なんだよ、結局、はぐらかしてんじゃんかよ!」
・・・その通り。

[END]


[Story]