Sweet Lips

「おひとつどうぞ!」
凍える街角。肩を並べて歩いていた大門と松田に、制服らしいミニスカートをはいた女の子が差し出したのは、小さなチョコレート一つ。
「バレンタインですから!」
にっこりと大きく微笑んだ少女が、大門の掌にチョコレートを落とした。
「バレンタイン、ね」
むげにも断れず、チョコレートを受け取った大門が、小さく苦笑を漏らした。ピンク色の小さな包みを弄びながら、一つ角を折れると、途端に街の喧騒が遠のいた。
くすりと笑った大門が、松田の手をとり、その掌にチョコレートを落とした。
「俺の気持ち」
くすくすと笑み崩れた松田が、包みを破り、チョコレートを口に銜えた。
そのまま、大門の首に腕を絡ませ、引き寄せると、大門の唇にくちづける。二人の唇の上で、チョコレートがとろとろと蕩けた。
「俺の気持ちです」
僅かに唇を浮かせて囁く松田の、細い背中を抱き寄せて。甘いチョコレートの名残を嘗め尽くすように、大門は松田の唇を存分に味わった。
逞しい大門の腕に抱かれて、松田が蕩けるような笑みを浮かべた。
「団長―――うちに寄って行きませんか?」
大門に否やのあるはずもなく。松田の細い肩を抱いて、松田のマンションへ向けて歩き出す。

「団長、コート」
松田が甲斐甲斐しく、大門の肩からコートを取り上げ、コート掛けに掛けた。自分のコートを並べて掛けると、大門を振り向いて微笑んだ。
「コーヒーでも淹れますね」
「ああ」
短く答えた大門は、リビングのソファに腰を落ち着けた。いつもながら男の一人住まいにしてはすっきりと片付けられた松田の部屋は、大門にとって心からくつろげる数少ない場所のひとつだった。大門は、ネクタイを緩めて、背もたれに凭れかかった。
キッチンから、コーヒーの香ばしい香りが漂ってくる頃には、大門はうとうとと眠りに落ちかけていた。
「団長?」
コーヒーカップを二つ、トレーに乗せてリビングに入ってきた松田が、微かに疲れが滲み出ている大門の寝顔を覗き込んだ。
くすりと笑みを零すと、トレーごとカップをテーブルに置き、大門の足下に座り込む。触れるか触れないかの微妙な距離に身を置くと、ほのかに大門の体温が伝わってくる。大門を起こさないよう、そっと膝に頭を凭せ掛けると、大門が身動ぎをした。
「リキ?」
ぱっと頭をもたげた松田が、バツの悪そうな顔をした。
「すみません、起こしちゃいましたね」
「いや、いい」
目をしばたたかせた大門が、コーヒーカップを取り上げる。湯気を立てているコーヒーを一口飲むと、穏やかな笑みを浮かべた。
「相変わらず、おまえの淹れるコーヒーは旨いな」
「ありがとうございます」
松田がにっこりと微笑んだ。
「アコの淹れるコーヒーはどうにも不味くてな」
コーヒーをすすりながら、大門が苦笑を漏らした。松田がくすくすと笑みを零した。
「いいんですか、そんなこと言って」
「本当のことだよ」
笑う大門に、松田が悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「アコちゃんに言いつけますよ」
松田の言葉に、大門がちょっと困ったように瞬きをした。
「おいおい、勘弁してくれよ」
ふふっと笑った松田が、大門の膝に肘をつき、大門の顔を見上げるように覗きこんだ。
「じゃあ、口止め料を頂きます」
「なんだ?」
「コ・レ」
つと背を伸ばした松田が、大門の唇に掠めるようなキスをした。そのまま体を離そうとする松田の細い背中を、大門が胸深く抱き寄せた。微笑を浮かべたままの松田の唇に唇を重ねる。
「これだけでいいのか?」
唇を離して笑う大門に、松田が甘えるように囁いた。
「全然足りません」
くすりと笑った大門の唇が、松田の唇をやわらかく塞ぐ。大門は、誘うように薄く開かれた松田の唇の間に舌を差し入れ、ねっとりと絡みつくようなくちづけを繰り返した。
松田のしなやかな腕が、大門の首に縋りつくように絡みつく。
大門は、抱え上げるように、松田の細い体を膝の上に抱き上げた。服の裾をたくし上げ、そろりと忍び込んだ大門の手が、松田のわき腹を撫で上げる。薄い胸を柔らかく揉みしだき、小さな突起を掌で転がすように愛撫すると、松田の唇から甘い吐息が漏れた。
露わになった滑らかな肌に、大門がそっとくちづけを落としていく。大門の唇が触れるたび、松田の唇から甘い吐息が零れ落ちた。
焦らすように、大門が、松田の背中をさわさわと撫で上げた。細い項に唇を這わせ、時折きつく吸い上げる。
「―――団長」
全身に広がる、痺れるような甘い感覚に、松田が切なく大門の名を呼んだ。
誘われるように、松田の唇を唇で塞いだ大門の手が、密やかに息づく松田自身を、布の上から甘く揉みしだいた。手早くファスナーを下ろして潜り込んだ大門の指が、松田自身に絡みつく。
「はあっ―――」
直に加えられる刺激に、松田が甘い吐息をついた。律動的に動く大門の指が、松田を追い上げていく。
ぎりぎりまで張りつめた松田自身から離れた大門の指が、その奥の秘められた部分にそろりと触れた。ゆっくりと揉みしだき、狭い入り口に指先をそっと潜り込ませる。
「くぅ―――ん」
異物感に、松田の喉から押し殺した声が漏れた。 大門は、松田の体を傷つけないよう、丹念に愛撫を施し、松田の秘部をゆっくりと馴らしていく。ゆっくりと指を挿入し、内奥の秘められた部分をじっくりと愛撫する。
「ああっ」
体の奥の敏感な部分を直に刺激されて、松田が大きく身を震わせた。
「団長―――団長」
切なく声を震わせる松田の秘部から指を引き抜き、今度は二本の指を揃えてゆっくりと挿入する。大門は、松田の熱く濡れた内部をゆっくりと押し開くように、指を蠢かせた。
松田の体が十分に緩んだのを見計い、松田の細い腰を抱え上げる。そのままゆっくりと、いきり立つ己の上に松田の細い腰を下ろしていく。
「あ―――ああああぁっ」
大門の逞しい雄を受け入れて、松田の体が甘い悲鳴を上げた。大門が、ゆっくりと突き上げるように腰を動かすたびに、松田の細い体ががくがくと揺れ、熱い肉襞が大門自身を甘く締めつけた。大門の動きにあわせて、甘い快楽を貪るように、松田がゆらゆらと腰を揺らめかせる。
「―――団長、団長、団長」
狂おしいほどに大門の名を呼び続けながら、松田が白い精を放った。同時に、昇りつめた大門が松田の熱い内部に己自身を解放した。 全身の力を失った松田の体が、くったりと大門の胸に凭れかかる。
厚い大門の胸に抱かれて、松田は甘い余韻に浸って吐息をついた。大門の大きな手が、優しく松田の髪を撫でた。 大門が、小さく笑って、松田の耳元に囁いた。
「これで足りたか?」
「もう、十分です」
ふわりと微笑んだ松田の唇を、大門の唇が優しく塞いだ。

[END]

2005.03.1
[Story]