Temptation

〜初花〜


『今日はもうお帰り』
先日の松田の宿直に付き合った夜。
勝てる見込みのない賭け将棋で、松田の言うままに『何でも言うことを聞く』と約束をした巽は、甘いくちづけに始まった松田の与える快楽に散々に翻弄された。
甘い毒のような松田の囁きに唆されて、松田自身を口に含み、松田の放った白濁した愛液を飲み下した巽は、次に与えられるであろう、より強い快楽に胸をわななかせていた。
ところが、巽の濡れた唇に甘いくちづけを落とした松田は、くすりと笑って、「今日はもうお帰り」と残酷に囁いた。
欲情に濡れた眸で松田を見つめる巽に、「続きはまた今度、な」と、松田は妖艶な微笑みを浮かべた。
『続き』
女とならば行き着く先は分かりきっている。しかし、男の松田となら?
初心な巽には、松田の言う『続き』がどんなものなのか、想像がつかなかった。
より深く松田と交わりたい、と思うばかりで、自分からはどうしていいのか分からない巽は、松田に促されるまま、刑事部屋をあとにした。

「うちで飲みなおすかい?」
松田と巽と源田と兼子。大きな事件が片付いて、久しぶりに四人で飲みに出かけた夜。
すっかり出来上がった源田と、その世話を焼く兼子に聞こえないよう、松田が巽の耳元で囁いた。
『続きはまた今度、な』
いつかの松田の囁きが脳裡をよぎり、巽の心臓がとくんとひとつ跳ねた。無言のまま、こくりと頷く。
「ジン、ゲンのことよろしくな」
明るい声で兼子に言葉をかけると、松田が先に立って歩き出した。巽は、ざわめく胸を抱えて、松田のあとに続いた。
肩を並べて歩こうかどうしようかと迷いながら、半歩遅れて歩く巽を、松田がちらりと振り向いた。薄い笑みを刷いて、松田は巽の肩を抱き寄せた。
「リキさん?」
「この方があったかいだろ?」
他意のないような顔をして松田が笑う。
触れ合った体から、松田の温もりが伝わってきて、巽の心はますますざわめいた。どきどきと響く心臓の音が松田に聞こえはしないかと、なおさら鼓動が早くなる。
「おまえ、もしかして、緊張してる?」
そんな巽を見透かすように、松田がくすりと笑った。
「そんなわけないじゃん」
口を尖らせた巽の耳が赤く染まる。
松田は、何も言わずに、くすくすと笑いを零した。

初めて足を踏み入れた松田の部屋は、巽の部屋とは違って、男の一人暮らしにしてはすっきりと片付いていた。
「ロックでいいか?」
松田が、グラスに氷を放り込み、ウィスキーを注ぐ。
巽は、手渡されたグラスを口に運びながら、ちらりと上目遣いに松田の顔を覗き込んだ。気づいた松田が眼だけで笑って見せる。
それだけのことで巽の心臓はどきりと高鳴り、巽は慌てて視線をグラスに落とした。
「―――あの、さ」
何か話さなくては、と思い口を開くが、どぎまぎとして何を話せばいいのか分からなくなる。
「あのさ、俺―――俺・・・」
「なあ、タツ」
口篭る巽を、薄い笑みを刷いて見つめていた松田が、おもむろに口を開いた。
「俺のことが好きかい?」
いつかの早朝の刑事部屋で、仮眠から覚めた松田が、その言葉とともに甘いくちづけをくれたことを思い出し、巽はこくりと頷いた。
「だったら、こっちへ来いよ」
戸惑いに動けずにいる巽に、松田がふわりと微笑んだ。
「悦いことをしてやるよ」
どきりと巽の胸が高鳴った。
いつかの『続き』―――そう考えるだけで、巽の体の奥深くで何かが疼いた。
巽は、何かに酔ったようにふらりと立ち上がり、おずおずと、ソファに腰掛ける松田の前に立った。
「おいで」
巽の腕を掴んだ松田が、細い体に似合わぬ強い力で巽を引き寄せた。よろめいた巽は、松田の膝の間に膝をつくようにして、松田の顔をどぎまぎと見下ろした。
「リキさん―――」
松田のもう一方の腕が巽の首に絡みつき、引き寄せる。松田の薄い唇が、巽の唇に重なった。上唇を甘噛みし、角度を変えては、巽の唇をきつく、やわらかく吸い上げる。
薄く開かれた唇の間から、柔らかな松田の舌が忍び込み、緊張に強張っている巽の舌に絡みついた。先端を尖らせた舌で、巽の舌の先端をちろちろと舐めあげる。
濃厚な松田のくちづけに、巽の中心に熱が点った。それと気づかれないよう、思わず腰を引いた巽を許さず、松田は、より深く巽を抱き寄せた。
セーターの裾から忍び込んだ松田の悪戯な手が、巽の引き締まったわき腹を撫で上げ、平らかな胸を揉みしだいた。松田の掌の下で、密かに息づく小さな突起が硬くしこり始める。
「く―――ん」
松田のくちづけに翻弄されるがままの巽の唇から、くぐもった声が漏れた。
松田の指が、硬くしこった突起を捏ねるように摘んだ。甘い刺激に、巽の体がぴくんと震える。
松田にセーターを剥ぎ取られた巽の若々しい上半身は、ほんのりと朱に染まっていた。
ようやく巽の唇を解放した松田の唇が、もう一方の突起を咥えこみ、舌で押しつぶすように撫で上げた。
「あ」
思わず巽の唇から声が漏れる。
「悦いかい?」
くすりと笑った松田の問いに、巽はいやいやをするように、かすかにかぶりを振った。
「じゃあ、もっと悦いことをしてやるよ」
巽の胸を弄っていた松田の手が、するりと滑り下り、革のパンツのボタンを外し、ファスナーを引きおろした。
松田の舌の与える快楽に頭をくらくらさせながら、巽は、またいつかのように松田が巽自身を愛してくれるのかと、胸をわななかせた。
松田は、巽の下半身をくつろげると、引き締まった臀部をやわらかく揉みしだいた。新たな悦楽に、巽の体が蕩けるように震えた。
「リキさん―――」
熱く滾る中心への愛撫を求めるように、巽が甘えた声で松田の名を呼んだ。
「し」
松田は、にやりと笑うと、唇に人差し指を当てた。
「じっとしておいで」
両の掌で、巽の引き締まった双丘を淫らに撫で回す。つっと、松田の指が、双丘の間に割って入った。
「や―――」
思わぬところに刺激を与えられて、巽が身じろぎをした。
松田は構わず、双丘の奥の硬い蕾に指を這わせた。柔らかく、柔らかく、揉みしだいていく。
空いたほうの手で、頭をもたげ始めている巽自身の先端に零れる先走りの愛液を掬い取り、今度はその指で、蕩け始めた巽の蕾をぬるりと撫でる。
羞恥に耳まで赤く染めた巽の顔を見上げて、松田がくすりと笑った。
「感じるかい?」
今まで経験したことのない淫らな感覚に、巽は、頷くことも首を振ることもできず、ただ自らの人差し指を噛んだ。
松田の濡れた指先が、ほころび始めた蕾にするりと滑り込んだ。
「あ」
初めて感じる異物感に、巽は思わず体を強張らせた。
「力を抜いてろよ」
蕾をこじ開けるように先端だけを潜りこませた指先が、淫らに蠢いた。少しずつ少しずつ、松田の細い指が巽の内部に侵入していく。
巽の奥深くに忍び込んだ松田の指が、秘められた部分を探り当て、つっと撫で上げた。
「ああっ」
今まで感じたことのない、強烈な快感に巽の体がびくりと震えた。
「悦いんだろ?」
松田が淫らに問いかけた。巽の深部に潜りこませた指を、さらに淫らに蠢かせて、巽を追い上げていく。
濃厚なくちづけと淫らな愛撫によって芯を持ち始めていた巽自身が、一度も触れられていないのに、徐々に硬く勃ち上がっていく。
松田は、にやりと笑うと、ゆっくりと抽挿を繰り返し始めた。静かな部屋に、濡れた音と巽の荒い息だけが響く。
初めて感じる甘い快楽に、巽は思わず松田の指を締めつけた。さらに強い悦楽が、犯された場所からこみ上げてくる。
松田の指の律動的な抽挿にあわせて、巽の熱い肉襞が松田の細い指を強く締めつけ始めた。
「タツは、ここをこうされるのが好きなんだな」
妖艶な笑みを浮かべた松田が、巽の頭を抱き寄せて、熱い吐息に濡れた巽の唇についばむようなくちづけを与えた。
「初めてなのに、もうこんなにして」
松田が、先走りの愛液に濡れた巽自身の小さな孔を、ちろりと舐めた。
「リキさんっ―――」
悲鳴のような嬌声を上げた巽の目尻に、うっすらと涙が光っていた。
松田は、一度根元まで突き入れた指を引き抜くと、今度は二本の指を揃えて、巽の秘部に突き立てた。弄りつくされた巽の秘部は、驚くほど何の抵抗もなく、二本の指を呑み込んでいった。
「く」
狭い秘部を弄る二本の指に、巽が小さく呻き声を上げた。だが、その呻き声も、すぐに濡れた吐息に変わっていった。
二本の指は、淫らに蠢いて、巽の内部を散々に嬲り尽くした。もっとも敏感な部分を、爪先で交互に撫でていく。その度に、巽の体ががくがくと大きく震えた。
「リキさん・・・!」
きつく眉根を寄せた巽は、こらえきれず、松田の肩にしがみつくように顔を埋めた。
「どうした?」
松田が、笑いを含んだ声で囁いた。
「―――や・・・もう、やめ・・・」
巽が喘ぎながら、切れ切れに呟く。
くすっと笑った松田が、残酷に囁いた。
「やめて欲しいのか?」
言葉もなくがくがくと震える巽の背中を抱いて、松田は、殊更ゆっくりと二本の指を引き抜いた。
「ああぁっ」
巽の熱い肉襞がしなやかな指に絡みつき、内臓を引きずり出されるような強く甘い快楽に、巽は思わず声を上げた。
松田は、巽の髪を柔らかく掴み、巽の顔を上げさせると、欲情に濡れた巽の眸を覗き込んだ。
「ほんとはどうして欲しいんだ?」
はちきれんばかりに屹立した巽自身が、白濁した欲望を吐き出そうと、びくびくと震えている。
羞恥に目元を朱に染めた巽が、唇を震わせて、何度もためらうように息を呑み込んだ。
意地悪く覗き込んでくる松田の視線から逃れるように顔を背けた巽は、少し俯いて小さく呟いた。
「―――イかせて、欲しい」
「聞こえないよ」
意地悪な松田の答えに、巽の耳にさっと血が上る。
「もう一度、言ってごらん」
松田の掌が、剥き出しにされた巽の双丘を淫らに撫でた。
巽は、松田から顔を背けたまま、懇願するように呟いた。
「イかせて」
「可愛いな、タツは」
くすりと笑った松田は、ゆっくりと巽の双丘を撫で回すと、二本の指を揃えて巽の秘部に突き入れた。
一瞬体を強張らせた巽が、ひゅうっと息を呑み込んだ。十分に慣らされた秘部は、貪欲に松田の指を飲み込んで締めつける。
きつく眉根を寄せた巽の睫毛が、欲情に濡れていた。そっと巽の頭を抱き寄せた松田が、舌の先でその雫を拭い取る。
「イかせてやるよ」
甘く囁いた松田が、巽の背を抱き寄せて、抽挿を速めた。強まる快感に、巽の背がしなるように反り返った。
「あぁっ」
一際高い嬌声とともに、巽は、白濁した欲望を吐き出した。白く弾けた愛液が、松田の顔を汚した。
頬を伝う巽の欲望の証を指で掬い取り、巽に見せつけるように舌を這わせる。
「おまえの味がするよ」
艶かしく微笑んだ松田を見て、巽は、ぞくりと背を震わせた。
赤く頬を染めた巽の頭を抱き寄せて、松田が甘く囁いた。
「今夜は泊っていけよ」
松田の薄い肩に顔を埋めたまま、巽はこくんとうなずいた。


2006.01.26
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