no-dice

One-Night Stand ◆2◆


松田が目を覚ますと、既に窓の外はほの明るくなっていた。雨もどうやらあがったらしい。どこかで雀の鳴く声が聞こえる。
目の前に投げ出された自分のものではない腕に、昨夜の行為を思い出す。巽は、松田を背後から抱くようにして眠っている。規則正しい寝息が聞こえた。
巽を起こさぬように、胸を抱くように回された腕をそっと外し、身を起こす。身体の奥に鈍い痛みを感じて、眉を顰めてふっと息を吐いた。
穏やかで満ち足りたような巽の寝顔を見下ろすと、いつもの射るような眼差しが閉じた瞼に隠されて、その寝顔はまるで少年のようだ。思わず笑みが浮かぶ。
巽は、いつもふてぶてしいほどに鋭い眸をしている。そのくせ、笑うと驚くほどにあどけなくなり、ハーレーの手入れをする時などは、完全に子供にかえったような眸をしている。
その姿を思い出し、松田はくつくつと喉の奥で笑った。
巽を起こしてしまうかと思ったが、巽は何も知らぬげにぐっすりと眠り込んでいる。
その寝顔を見ていると、ふと悪戯心が湧いてきて、その高い鼻の頭を指先でちょんと突っついてみる。
「――ん」
巽は小さく呻いて手を上げて、鼻の頭をこすった。が、目を覚ます気配はない。その様が、日頃の巽のふてぶてしさとはあまりにもかけ離れて、子供じみていて、本格的に笑いが込み上げてくる。
――ほんとに、ガキみたいだな・・・。
傲慢で、自信家で、青臭くて。斜に構えて見せるくせに、その実、危なっかしいほどに真っ直ぐな年下の友人。
共に銃弾の雨の下を走り、命懸けの修羅場を幾度となく潜り抜けてきた"戦友"。
互いの宿直につきあっては、下手な将棋を指し、馬鹿話に興じ、松田の爪弾くギターにあわせて歌った。
これまでも、そしてこれからも、それは変わることはない。
松田は、そっと巽の髪にくちづけ、苦く笑うと、静かにベッドを抜け出した。


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