Sweet Sweet Sweet


「なんですか、この手?」
北条は、自分に向かって突き出された鳩村の手を、訝しげに見つめた。
「おまえ、何言ってんの。今日が何の日だか、忘れたのか?」
不満げに顔を歪めた鳩村の言葉に、北条は、ますます不審な顔をして見せた。
「何の日って―――今日14日ですよね」
北条の言葉に、鳩村は、わが意を得たり、とばかりにうなずいた。
「だから、なんなんですか?」
まだ鳩村の意図を理解できない北条に、鳩村は、拳骨を食らわせた。
「今日は、バレンタインだろっ」
「―――ってぇ、だから何だって言うんですかぁ」
殴られた頭を押さえて、北条が抗議の声を上げる。
「何って、おまえね」
全く信じられない、とばかりに肩を竦めた鳩村が、とくとくと語り始めた。
「バレンタインといえば、愛する人に、その思いの丈を込めてチョコレートを贈る日だろう」
「それはそうですけど・・・」
ますます訳が分からない、といったふうに呟く北条に、鳩村は気障な仕草で首を振った。
「当然、おまえも俺に、チョコレートを贈らなければならない」
「はあ?」
「はあ?じゃなくて」
ぐいっと突き出された鳩村の手に、北条は眼を白黒させた。
しょうがないなあ、と肩を竦めて鳩村が言った。
「チョコレート買って来い。さもなきゃ、お仕置きだ」
北条は、即座に答えて身を翻した。
「買ってきます!」
[END]


2005.02.14初出:裏西部

2015.02.14再掲

[Story]