no-dice

Don't pick on me


いつものように宿直の松田に引き止められた巽は、松田の爪弾くギターにあわせて少々気恥ずかしいようなラブソングを歌っていた。そうでなくても松田に見つめられながら歌うのは照れくさい。甘いラブソングを歌えばなおさらだ。
照れながら歌っているうちに気分が高まって、巽はふと歌うのをやめて松田を見つめた。松田もギターを爪弾く手を止めて、巽をじっと見つめ返してくる。その眸に引き込まれるように、巽は松田に身を寄せた――。
「リキさ〜ん、眼くらいつぶってよ――」
唇が触れる寸前までに顔を近づけても眼を見開いてじーっと見つめ返してくる松田の眼を、巽は訴えるように覗き込んだ。
「――いやー、おまえってほんっとイイ男だなーと思って」
「はあ?」
とっぴな松田の言葉に、思わず間のぬけた声をあげる巽をまじまじと見かえしたまま、松田は続けた。
「で、俺って結構、おまえの顔好きだったんだなー、と」
しれっと言ってのける松田を見て、巽は脱力したようにがっくりと肩を落とすと、深く深く溜め息を吐いた。
「だから、なんで、そうやって茶化すかなー・・・」
「茶化してないだろ。誉めてんじゃない、イイ男だって」
「・・・眼が笑ってる」
「え?」
「眼が笑ってる」
そう繰り返した巽は、恨めし気に上目遣いで松田の眼を覗き込んだ。
「え、そう?」
とぼけた顔で答える松田の眼は、しっかりはっきり笑っている。それを見て取った巽は、がばっと身を起こすとまくしたてた。
「『え、そう?』じゃねぇだろ!――いつもいつもいつも〜〜〜。だいたい、先にキスしたのリキさんじゃん!なのに、なんで俺がキスしようとするといつも茶化すんだよっ?人をおちょくんのも大概にしろよっ」
言うだけ言うと、巽は荒々しく立ち上がった。
「タツ?」
少し驚いたように眉を上げて見上げる松田をムリヤリ無視して、巽は足音も高くドアに向かった。
「帰る!」
巽は乱暴にドアを開けると、「お疲れ!」と言い捨てて、音を立ててドアを閉じた。苛立ちにまかせた荒々しい靴音が廊下を遠ざかっていく。
「――あいつ、わかって言ってんのかね?」
残された松田は、くすりと笑って肩を竦めた。
いつもいつも「好きだ」と言い続けてきたのは、巽。だが先にくちづけたのは、巽が口走った通り、松田の方だ。それがどういうことなのか、巽はちゃんとわかっているのだろうか。
――うーん、どこまでもカワイイやつ。
松田はくすくすと笑いながら、ギターを爪弾き始めた。
[END]

[Story]