Can't stop・・・

〜タツの場合〜

「――それで、ゲンの野郎がさ・・・」
巽は、松田の声を聞きながら、なんとなくその唇を見つめていた。松田のやや薄い唇が、ときどきグラスを口に運びながら言葉を紡ぎ出すのを、じっと見ていた。
「・・・だろ?」
松田が相槌を求めるように巽を振り向いたとき、巽は吸い寄せられるように、その唇に唇を重ねていた。松田の唇は思いの外柔らかく、嗅ぎ慣れた松田の煙草の匂いが巽の鼻孔をくすぐった。
「――おまえ、何考えてんの?」
巽が唇を離すと、松田はちょっと驚いたような眼をしていたが、別に咎めるわけでもなかった。
「えっ・・・と、いや、なんとなく・・・」
「おまえ、なんとなく、で野郎に妙な気起こすなよ」
松田は、ちょっと呆れたように苦笑を浮かべて、巽の額を軽くこづいた。その手を捉えて、巽は松田を引き寄せた。
「――って言うかさあ・・・」
そのまま、再び唇を重ねる。不安定な体勢でもがく松田の抵抗を、背に回した腕で封じ、巽は松田の唇の感触を確かめるように、しっかりと深くくちづけた。体重を掛けるようにして、松田の身体を床に横たえる。
「リキさん、俺のこと、嫌い?」
「いきなり、何言ってんだよ」
脈絡のない巽の言葉に、呆れたように小さく溜め息を吐いた松田の唇を、唇でそっと塞ぐ。薄く開いた唇から舌を滑り込ませて、口蓋をそっと撫で上げる。松田の身体がぴくりと震えた。
「――気持ち悪い?」
巽は、わずかに唇を離して、松田の眼を覗き込んだ。
松田は、ほんの少し眉を寄せて、巽の眼を真っ直ぐに見つめ返した。嫌悪感は感じないが、それ以前の問題のはずだ。あまり笑えないジョークであることだけは、確かだった。
「――別に気持ち悪かないけど――そういう問題じゃないだろ」
「俺、なんか、すっげぇ気持ちいいんだけど」
そう言って、またくちづけようとする巽の身体を押し戻して、松田は呆れたように言った。
「そりゃ、酔っ払ってるだけだろーが、おまえ」
「そんなに酔ってないって」
「酔ってる奴に限ってそう言うんだよ、ったく」
松田は笑って、巽の額をつん、と突っつくと、巽の身体を押しのけて身を起こそうとした。巽が、覆い被さるようにして、その動きを封じる。
「酔ってないって」
松田は、言い終わらないうちに唇を重ねてくる巽の髪を掴んで、思いっきり引っ張った。
「いたたたたっ」
「おまえなぁ、酔ってなきゃ、なおさら悪いだろーが」
「――んじゃ、酔ってるつーことで」
一瞬考えるような眼をした巽は、簡単に前言を撤回すると、自分の髪を掴んでいた松田の手を掴み、床に押え込んだ。
「タ〜ツ〜」
いい加減にしろ、という松田の言葉は、重ねられた巽の唇に呑み込まれた。するり、と滑り込んできた巽の舌が松田の舌を絡めとる。歯列をなぞり、口蓋を撫で上げる。巽は、執拗なほどにくちづけを繰り返した。
「・・・ふ」
長いくちづけの合間に、松田の唇から小さく吐息が漏れた。押しのけようと巽の肩にかけた松田の手が、巽のシャツを握り締める。松田は我知らず、巽のくちづけに応えて巽の舌に舌を絡めていた。
どうかしている。自分も相当酔っている。そんな思いが、松田の頭の隅をちらりと掠めたが、貪り合うように繰り返される巽とのくちづけに押し流されていった。
「――リキさん・・・」
巽が小さく囁いて、松田の耳朶を柔らかく噛んだ。首筋に顔を埋めるようにして、そっと舌を這わせる。指が松田の胸元を探り、はだけたシャツの隙間から滑り込んだ手が、滑らかな胸に触れた。
身体の奥がざわりと騒ぐような感触に、ぼんやりとしていた松田の意識が引き戻される。
「タツ、ちょっと待て!」
松田の手が、胸元を探る巽の手を押しとどめた。熱を帯びた巽の眼が、松田の眼を覗き込む。
「なんで?」
「なんで、って、おまえね・・・」
「いいじゃん、別に」
そう言うと、巽は、困惑したような松田の唇を唇で塞いだ。押しのけようとする松田を押え込んで、より深く唇を重ねる。巽の手が松田の胸を滑り、突起を探りあてそっと弄う。塞がれた松田の唇からくぐもった声が漏れ、松田の身体が小さく震えた。
巽を押しのけようともがく松田の唇を解放すると、巽は笑いを含んだ声で囁いた。
「大体さあ・・・、男は急に止まんないって」
「何言ってんだ、おまえ――」
巽の言葉に反論しかけた松田の腿に、巽の熱が触れ、一瞬言葉に詰まる。熱を帯びた眼で覗き込んでくる巽を、松田は少し眉を寄せ、真っ直ぐに見上げて言葉を継いだ。
「――あのなぁ、俺だって男なんだけどな?」
「だからさぁ・・・」
松田の両膝を割って入り込んだ巽の膝が、わずかに熱を帯び始めている松田自身にそっと触れる。甘い刺激が松田の背筋を駆け上る。
巽が甘えるような声で囁いた。
「ね、だから、いいじゃん」
一度熱を帯び始めた男の身体を鎮めるには、それなりの手順が必要だ。自らを解放する快楽を得られるならば、この際、相手が男であることには目をつぶってもいい――普段ならば、決して浮かぶはずのない、享楽的な思いが、何故か松田の脳裡を掠めた。
――ま、いっか・・・
松田は苦笑すると、巽の首に腕を絡めて引き寄せた。一瞬触れた唇を離して囁く。
「――しょうがねぇなぁ、この酔っ払いは・・・」
やっぱり自分も相当酔っている――熱っぽい巽のくちづけを受け入れながら、松田はすべてを酒のせいにしてしまうことにして、深く考えることを放棄した。

巽は、松田の首筋に顔を埋めるようにして、耳朶にくちづけ、首筋に舌を這わせた。松田の吐息が巽の耳をくすぐる。巽の愛撫に応えるように、松田は巽の肩にくちづけ、軽く歯を立てた。巽の熱を煽るように、掌でそっと巽の背筋を撫で上げる。
貪り合うようにくちづけを繰り返し、互いの身体に唇を這わせ、指で肌を探り合う。絡み合った下肢に互いの熱が触れる。その熱に煽り立てられるように、一層互いの肌を貪り合った。
巽の唇が松田の喉元に吸いつき、舌が鎖骨をなぞる。襟元からこぼれたネックレスが松田のそれと触れ合って、シャラリと乾いた音を立てた。巽は、松田の胸元を飾る金の鎖ごと、松田の肌をきつく吸い上げた。
「・・・ん」
松田の唇から小さく声が漏れる。その声に煽られるように、巽は一層熱っぽく松田の肌に舌を這わせた。松田の胸をさまよっていた巽の手が、脇腹を撫で上げ、胸の突起に触れる。指で弄うように転がし、もう一方の突起を口に含み、舌でなぞり軽く歯を立てる。
軽くのけぞる松田の身体を背に回した腕で抱き留め、胸に這わせていた手を伸ばし、巽はジーンズの上から松田の熱にそっと触れた。柔らかく揉みしだくと、松田は微かに眉を寄せて吐息を漏らした。巽は手早くファスナーを降ろし、滑り込ませた手で松田の熱に直に触れ、指を絡めた。
「タ・・・ツ・・・」
掠れた声で名を呼ばれて、巽は松田の胸から顔を上げた。松田は腕を伸ばし、巽を引き寄せ唇を重ね、もう一方の腕を巽自身に伸ばす。
二人は、互いの熱を煽りたてながら、貪るようなくちづけを交わした。
「リキさん・・・」
巽の唇が、首筋から胸へ、胸から腹へと滑り降りていく。巽は、松田のジーンズをインナーごと引き摺り下ろすと、あらわになった内腿に舌を這わせた。松田の身体がびくりと震え、唇から吐息が漏れる。巽はその声に煽られるように、熱を帯びた松田自身に舌を這わせた。形をなぞるように丹念に舌を這わせた後、巽は松田自身を口に含んだ。
「――っ」
松田は、眉根をきつく寄せ、緩く首を左右に振った。伸ばした手で、巽の頭を引き離そうとするがかなわず、巽の稚い、だが丹念な愛撫に喘ぎ声を漏らした。
「・・・はぁっ・・・ん」
「リキさん―――リキさんの中に入ってもいい?」
松田の熱の中心から顔を上げた巽の唇が、透明な糸を引いている。濡れた唇から漏れた甘えるような囁き声に、松田は、蕩けるような声で応えた。
「早く来いよ―――」
その声に誘われるように、巽は先走りの愛液に濡れた巽自身を松田の秘部に埋めた。
「リキさんの中、すっげぇ気持ちいい―――」
巽はがくがくと体を震わせて、白い迸りを松田の体内にこぼした。同時に、松田自身からも白い愛液が弾け散り、巽と松田の下腹部を濡らした。
荒い息を吐きながら、巽は、松田についばむようなくちづけを繰り返した。
裸の胸を合わせて、脚を絡め合い、二人はとろとろと微睡みの中に落ちていった。


2004/05/18
[Story]