no-dice

Kiss in the dream


「おい、タツ」
そっと揺り起こされて、巽はぼんやりと目を覚ました。
いつもの松田の部屋のソファの上。
だが、酔いが回っていて目を開けていられずに、つい眼を閉じてしまう。
ぼんやりとした頭で、内心、巽は情けなくなっていた。もう何度、こうして松田の部屋で酔いつぶれたか判らない。
いつからこんな気持ちになったのか、よくは思い出せないが、巽は松田にどうしようもなく惹かれている。知的で一見物静かなくせに、内に激しさを秘めている。それでいて茶目っ気があって、巽や源田をいつもからかっている。そうやって、いろいろな表情を見せる松田がとても好きで。
松田の宿直につきあうことも、松田を引き止めて宿直につきあわせることも多い。大きな事件を抱えていないときには、食事に誘い、酒を飲み、最後はどちらかの部屋で飲み直す。他愛のない馬鹿話に興じ、松田の爪弾くギターにあわせて歌う。
そうしていることが楽しくて、だが、いつからかそれだけでは物足りなくなった。巽にとって松田は特別な存在で、そして松田にとって特別な存在でありたいと思った。
だが、松田はいつもつれない。巽の気持ちを知ってか知らずか――おそらくは気づいているだろうと巽は思っているのだが――巽のアプローチを軽くあしらってしまう。
今日も、結局いいようにあしらわれて、酔い潰されてしまったのだ。
「リキさんって、ほんとつれないよなー・・・」
夢うつつにぼんやりと呟くと、急に息苦しくなった。ようやくの思いで重い瞼を開けると、松田が巽の鼻をつまんでいた。
「――リキひゃん?」
「おまえは、ほんっとに根性がないね」
半ば呆れたような口調で松田が呟く。松田はちょっと悪戯っぽく笑うと、巽に顔を近づけた。唇に松田の柔らかな唇の感触が触れる――。

「おい、タツ」
声とともに揺り起こされて、巽は目を覚ました。松田がカップを持って立っている。
「いい加減起きないと、遅刻しちまうぞ」
――夢?
巽はまだ覚めきっていない頭で記憶を辿るが、いかんせん酔いつぶれていたのでハッキリしない。
「ほら、コーヒー」
ソファの上に身を起こして、差し出されたコーヒーを受け取り、一口啜る。夢にしては、唇の感触が生々しいような気もしたが、そういう夢はもう何度も見ているからあてにはならない。
上目遣いにそっと窺った松田の表情は、いつもと全く変わらない。
「リキさん、あのさ、昨夜――」
巽は、言いさして口篭もってしまった。松田が怪訝な顔で問い返してくる。
「なんだよ、どうした?」
「いや、その、えーっと・・・」
――まさか、ね。ありえない、よな。
「――なんでもない、デス」
やはり夢に違いない。巽は、頭を掻いて松田から目をそらし、カップを口に運んだ。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

松田は、カップの陰で巽に気づかれないよう、ぺろりと舌を出した。
――この分だと、まだ、当分遊べるな♪

[END]


[Story]