no-dice

Snow ◇2◇ 団長とリキ


「お疲れ様でした!」
源田が割れ鐘のような声を上げ、大きく礼をして帰っていった。
「それじゃ、大さん。わしもこれで」
谷が大門に礼をして席を立った。年末には珍しく事件のないクリスマスイブ。谷は、何年か振りに一人娘とクリスマスを迎えることが出来る。
「お疲れ様」
にこやかに谷を送り出すと、二宮もいそいそと帰っていった。
「リキ、飲んで帰ろう」
大門がコートを取り上げ、松田に声を掛けた。
「いいんですか?アコちゃん、待ってるんじゃないんですか」
慌てて腰を上げる松田に、大門は苦笑を漏らした。
「そうそうアコのお守りばかりは出来んよ」
疑わしげな、また気遣わしげな松田の視線に、大門は、今度はにっこりと笑って見せた。
「アコは友達とクリスマスパーティーだそうだ。うちでやるから兄貴は帰ってくるなとさ」
「そうですか。それじゃ」
ちょっとほっとしたような目をして松田が微笑んだ。
「ジン、クリスマスイブに宿直させて済まんな」
そう宿直の兼子を労うと、大門は松田と共に刑事部屋を出て行った。
「お疲れ様でした」
後にはちょっと寂しそうな兼子が残された。

「冷えてきましたね」
居酒屋を出たところで、白い息を吐きながら松田が言った。
「雪でも降りそうだな」
大門がそう応えて歩き出すと、松田が肩を並べて歩き出す。
「雪が降ったらホワイトクリスマスですね」
「野郎二人じゃ、色気も何もあったもんじゃないがな」
苦笑を浮かべる大門に、松田も苦笑で応えた。
「まだいいんですか?」
松田は、明子のもとへ帰らなくていいのかと大門を気遣ったが、大門は笑って首を振った。
「今日くらい、アコのお守りから解放されたいよ」
他愛のないやりとりをしながら肩を並べて歩くと、弾みで手と手が触れ合った。
「あ」
小さく声を上げて手を引く松田の手の冷たさに、大門は思わず松田の手を握った。
「!―――団長」
松田が狼狽したような声を上げる。
「おまえの手、冷え切ってるじゃないか」
ぶっきらぼうにそう言うと、大門は松田の手を握り締めたまま、トレンチのポケットに手を突っ込んだ。
「団長」
突然のことに、頬を赤らめた松田が歩みを止める。つられて大門も立ち止まった。
「―――あったかいですね」
泣き笑いのような微笑を浮かべて松田が呟いた。
大門は、その微笑に引き込まれるように、笑みを浮かべた松田の薄い唇にくちづけた。
「Merry X'mas!」
[END]



初出:『裏西部』

2015.12.25再掲

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