no-dice

Secret Party ◇3◇ 団長の誕生日


日暮れ時の刑事部屋には、もう松田と大門しか残っていなかった。さらさらと大門がペンを走らす音が聞こえる。
松田は、そっと時計に目をやって、小さく溜息をついた。
もう少し、もう少しだけこうしていたい。
その思いを断ち切るように、デスクの抽斗を引きあけ、中に隠しておいた包みを取り出した。包みを背に隠すようにして席を立つ。
「団長」
控え目に声を掛けると、大門は無言で眼を上げた。
「お誕生日、おめでとうございます」
松田は、にっこりと笑みを浮かべて、包みを差し出した。
一瞬、驚いたような目をした大門だったが、すぐに照れ臭そうに笑って包みを受け取った。
「すっかり、忘れてたよ」
そうして、穏やかな笑みを浮かべたまま、包みを開いた。箱の中には、品のよいネクタイが入っていた。取り出したネクタイを襟元にあてながら、大門は松田に笑いかけた。
「似合うか?」
「はい」
「ありがとう」
「どういたしまして」
ちょっと芝居がかった身振りで、松田は敬礼をしてみせた。そして、おどけた笑みを浮かべたまま、口を開いた。
「早く帰ってあげてください」
松田の言葉に怪訝な顔をする大門に向かって、松田はウインクをして見せた。
「アコちゃん、ご馳走作って待ってますよ、きっと」
「そうか―――そうだな」
大門が、照れ臭そうに笑った。その目元に、ほんの少し寂しげな翳りがあると思ったのは、自惚れだ、と松田は思った。
大門は何も言わず、広げていた書類を閉じ、デスクの上を片付けると、背広を手に席を立った。
「ありがとうな」
もう一度、そう言い残すと大門は帰っていった。待つ者のいる家へと。
すっかり日の暮れた刑事部屋に一人残った松田は、今度は深々と溜息をついてソファに身を投げ出した。
できることならば、大門と2人で祝いたかった。だが、それは叶わぬ夢だ。家族を持つものに心を寄せた者に科せられた、それは逃れがたい宿命だった。
「ハッピー バースデイ トゥ ユー・・・」
頭の後ろで手を組んで、天井を見上げる。
「ハッピー バースデイ ディア・・・」
松田は、組んでいた手を解き、人差し指を唇に当てた。
「―――団長」
松田の囁きが、薄暗い刑事部屋に密やかに零れ落ちた。
[END]


ちなみに。渡哲也さんの誕生日は12月28日。

初出:『裏西部』

2015.05.18再掲

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