言の葉
「ん・・・んん」
ゆっくりと突き上げると、秀の唇から甘い呻きが漏れた。
「俺のことが、好きかい」
言いながら、またゆっくりと突き上げる。
「え・・・」
閉じていた瞼が、持ち上がる。濡れた黒目がちの眸が、勇次を見上げた。
「好きだって、言いなよ」
ゆっくりと突き上げると、秀はふいと目を逸らした。
「言・・わな・・・い」
絶対に、言わない。言えば、この男は離れていく。
所詮、遊び。靡かないものを、振り向かせる。それだけの、遊戯。
振り向いてしまえば、それで終わり。
落とした、射的の的のように。手に入れたものには、もう見向きもしない。
そういう男、だから。
絶対に、言わない。見向きもされなくなるよりは、いい。
「ん・・・あ・・・」
突き上げられて甘い呻きを漏らしながら、顔を背けたままの秀を見下ろして、勇次はつと眉を寄せた。
何故、言わない。
こうして、この腕に抱かれているのに。
嘘でもいいから、言えばいいのに。
背けられた秀の頬に手を添え、自分の方を向かせる。親指の腹で、つっと唇をなぞると、ぴくりと秀の身体が震えた。
この唇から、その言葉を聞きたい。
どれだけ甘く睦言を囁いても、どうしても聞くことのできない言葉。
嘘でもいい。
いや。
嘘ならば、聞かなくていい。
勇次は、秀の柔らかな髪を掴み、唇を重ねた。
「ん・・・」
交合が深くなり、秀が小さく呻いた。
嘘でも。
戯れでも。
今触れる、温みだけが、真実。
[終]
2015.5.18